シャーロックホームズの楽しみ方|お薦めの本

世界で最も高名な私立探偵。それがシャーロック=ホームズ。

私も小学生時代に全作品を読破しました。

当時はただホームズが難事件を名推理で解き明かしていくところを楽しんで読むだけでしたが、息子と一緒に大人の私が読み直してみると、とても新鮮な発見があります。

順を追ってホームズの魅力に迫ります。今日の記事は「高校生以上の方向け」です。

実話のようなリアリティー

ホームズが活躍したのは1887年~1927年の40年間。

ホームズはこの間、年を取らず結婚もしません。さらには一度滝壺に落ちて死んでいます。

しかもホームズは全戦全勝ではありません。たまに犯人との知恵比べに敗れることがあります。全60作品の中で数えたわけではありませんが、3回くらいホームズは負けています。まずここが一つ目のリアル。

そして、大人の私が感心するのがその時代背景の新しさです。世界史を勉強した後にホームズを読むと、学校で習った19世紀後半のイギリスの暮らしがとてもよくわかって楽しいです。

【1】産業革命 1769年~1830年頃

1769年にワットの蒸気機関が発明されると、イギリスは産業革命の時期に入ります。手で織っていた織物を機械で織れるようになり、生産性が10倍以上アップしました。蒸気機関車の登場で鉄道が走り始めました。工場や鉄道を持つ資本家が力をつけ、社会は資本主義化していきます。

イギリスは植民地のインドで生産したアヘンを清に売って巨万の富を得ました。清がアヘンを禁止したためイギリスと戦争になり、イギリス軍が勝利して香港をイギリス領としました。1842年~1997年まで150年間、香港はイギリス領でした。

ホームズがパイプでタバコを吸うシーンはお馴染みですが、実は麻薬中毒患者としても世界的に有名です。アヘンやコカインは当時のイギリスでは合法で嗜好品だったのです。

【2】パックスブリタニカ 1848年~1914年

世界の四分の一はイギリスだ」と言われていたのがこの時代。実際にイギリスは全世界の四分の一の面積と人口を持った大英帝国でありました。シャーロックホームズが活躍したのはまさにこの時代。アメリカ合衆国は1776年にイギリスから独立していましたが、ホームズの時代のイギリスはアメリカを凌ぐ超大国でした。21世紀の今日でも英語を話す人口は世界の四分の一、五分の一と言われています。

ホームズの相棒、ワトスン博士は医者であることが知られていますが、彼は「元・軍医」であります。インドを守りたいイギリスと、勢力を拡大したいロシアがアフガニスタンで3度にわたって戦争を繰り返したのですが、ワトスン博士がアフガニスタンで軍医をしていたのは第二次アフガン戦争(1878~80年)のことでした。

【3】日本の明治維新 1868年

このような欧州列強の近代化と工業化に日本の志士たちは非常に脅威を感じました。江戸幕府の限界を感じ、武家社会から開国近代化を目指します。日本への第一の衝撃はアメリカの黒船でしたが、坂本龍馬や西郷隆盛は日本が英仏に侵略されることを恐れていました。アメリカは太平洋を横断せねばなりませんが、アジアに植民地を持つ英仏の方が脅威だったからです。

 

歴史の勉強になる

ホームズの代表作「まだらの紐」を憶えていらっしゃるでしょうか?

衝撃的な殺人トリックで知られる作品ですが、犯人は「依頼人の義父」でした。

依頼人は実の父親を幼い頃に戦争で亡くしています。さりげなく書かれていますが、依頼人の実父はアフガン戦争の偉いさんです。陸軍少将と書かれています。後に実母はインドで知り合った義父と再婚し、程なく病死します。残された依頼人は義父とともに本国へ帰ります。

この依頼人はホームズの事務所を訪れ「私には実母の遺産がある」と言い出します。月1000ポンドもらえるというのです。何の遺産か詳細は書かれていませんが、このお金は陸軍少将であった実父の「遺族年金」みたいなものだと思われます。

犯人はその遺族年金を狙って、依頼人を殺害しようとするのですが、みごとホームズの名推理で犯人を捕まえることに成功するというお話。

ホームズシリーズは全編にわたって非常に戦争が身近であり、オーストラリア出身のイギリス人やインド帰りのイギリス人がたくさん登場します。上のような歴史を知って読むと非常に楽しめます。100年以上前の読者たちが「つい最近の事件や戦争に関連する珍事件」をホームズが次々解決するものだから、さぞかしリアリティーを感じながら読んでいただろうと想像すると非常にワクワクするというものです。

高校生が世界史を勉強しながら、ホームズを読む。これも一興だと思います。

「シャーロック=ホームズ」シリーズは非常にタイムリーな時事ネタをふんだんに取り入れています。だからリアリティーを持って当時の読者に愛されたのだと思います。ホームズを実在の探偵だと信じ込み、世界中からホームズへの依頼状も届いたそうです。私は「住所」がこれほどまで世界に知れ渡っている主人公を他に知りません。

 

ホームズの例え話もタイムリー

ホームズはよく例え話をします。

例えに用いる人物は古代ギリシャ神話やローマ帝国の詩人に哲学者。その時代に大ブームだった小説家や音楽など「時の人」も多数登場します。

「赤毛同盟」にこんなセリフがあります。

「どうだねワトスン君。今日の午後セント・ジェームズ・ホールでサラサーテの演奏会があるんだ。2~3時間付き合ってくれないか?」

サラサーテはツィゴイネルワイゼンやカルメン幻想曲などで知られる音楽家。ホームズはバイオリンもたしなみますし、サラサーテはステッキ収集が趣味だったとか。二人には共通点が多いです。

さらに赤毛同盟は1891年の作品。1877年にアメリカのトーマス=エジソンがレコードを発明し、10年遅れてヨーロッパでもレコードが普及し始めました。音楽が庶民の間にも広く浸透していったのではないかと思います。

こうしたホームズの「何気ない一言」を調査し研究して推理する人たちのことを「シャーロキアン」と呼びます。

これから国際化の進む時代、日本人にも世界史の知識は必要です。外国人と話す時、「ハロー。マイネームイズ」とか言ってる場合じゃないのです。海外の歴史と文化も勉強しておかないと、留学もビジネスも表面上の浅いお付き合いで終わってしまいます。ホームズの一言を推理して楽しむことも、21世紀の日本人に役立つかもしれませんよ。

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